前回、「項の基本的な構造が3種類ある」と申し上げました。 今回は、そのうちの、「音素の列に特別な機能語を付けて、音素列そのものを指す項に変えたもの」について考えてみましょう。
前回お話しした項は、音素列が意味する内容をあらわす項ですが、これからお話しするのは、音素列という記号そのものをあらわす項です。 このように、ロジバンでは、「音素列という記号」と、「その記号があらわすものごと」とを、はっきりと区別して表現します。 例えば、 傘という意味の {santa} という単語について、考えてみましょう。 これは内容語単語ですから、単独で述語になれます。 {santa} という述語に {lo} という機能語を付けて
lo santa
とすれば、「傘であるもの」という、ものごとをあらわす項となります。 {lo} という機能語の代わりに {zo} という機能語を付けて
zo santa
とすると、これは {santa} という音素列そのものを指す項となります。 「santaという記号」ということです。
{zo} という機能語は、その直後に来る単語1つだけに係って、その単語の音素列そのものを指す項を作ります。
2つ以上の単語から構成される音素列を指す項を作るには、 {lu} という機能語と {li'u} という機能語の間に、その音素列を入れます。 例えば、
vitci ponjo memi
という表現について考えましょう。 この表現は、3つの内容語が並んで、全体として述語になっています。
vitci 「あいまいな」
ponjo 「日本の」
memi 「私」
{memi} というのは {mi} 「私」という項の直前に、第8回でお話しした {me} という機能語が付いて作られた内容語です。
この表現を {lu} {li'u} という2つの機能語ではさむと
lu vitci ponjo me mi li'u
この表現全体は、「vitci ponjo memi」という音素列そのものを指す項となります。 この {lu} と {li'u} は、自然言語の中で使われる、引用をあらわすカギカッコに似たような働きがあると考えてもいいでしょう。
ただし、 {lu} と {li'u} の間に入る音素列は、この講座の第2回でお話ししたような、 文として認められる表現 となっていなければいけません。
文にはならないけれども、ロジバンの音素列の並び方の規則には従っているという表現を引用するには、 {lu} {li'u} の代わりに、 {lo'u} {le'u} を使います。 例えば
lo'u mamimumemo le'u
この {lo'u} と {le'u} の間に来る {mamimumemo} という音素列は、ロジバンの5つの機能語と見なされる音素列ですが、 {me} という機能語の後に項が無く、代わりに {mo} という代命題が来てしまっていますから、 文にはなっていません。 それでも {lo'u} と {le'u} の間に入れて {lo'u mamimumemo le'u} とすれば、全体として、 {mamimumemo} という音素列を指す項となります。
余談ですが、この音素列を並べ替えて、例えば {mu ma me mi mo} とすれば、「5つの何がわたしの何だ?」という意味の命題になりますから、文として認められる表現となり、 {lu} {li'u} の間にも入れることができます。
lu mu ma me mi mo li'u