LE類

Youtube : 第10回、 1分55秒から

述語になれる表現に機能語を付けて項に変えた表現は、実は、この講座の前回までの例文にも、たくさん出てきました。

lo bavlamdei 「あした」

lo trene ku 「列車」

lo ckule ku 「学校」

lo pendo ku 「友達」

lo mlatu ku 「猫」

lo cmalu gunse 「小さいガチョウ」

lo nu sipna ku 「眠ること」

lo cinki 「昆虫」

以上のどの表現でも {lo} という機能語が最初に出てきます。 この {lo} というのは、LE類という品詞に属する単語で、その後に来る1つの述語になれる表現全体を、1つの項に変える働きがあります。

{lo} の後に来るのは述語になれる表現ですから、その中の内容語の定義で決められる、1番めの項の役割というものがありますね。述語になれる表現を、 1番めの項の役割を担うものごと という意味の項に変えるのが、 {lo} という機能語なのです。

例えば {tavla} 「語る」という、述語になれる表現を思い出してみましょう。 {tavla} という内容語で定義されている1番めの項の役割は「語る主体」でしたね。 ですから、この前に {lo} を付けると

lo tavla 「語る主体であるもの」 つまり「語り手」

という意味の項になります。

では、述語になれる表現から、 1番めの項以外の項の役割を担うものごと という意味の項を作りたいときはどうするのでしょうか? 例えば、 {tavla} という内容語で定義されている、2番めの項の役割は「語る対象」つまり「語りの聞き手」ですが、 このような、「語りの聞き手」という意味の項を作ることを考えてみましょう。

このためには、まず、内容語で定義される項の役割の順番を変える働きのある機能語を使います。 例えば、SE類という品詞に属する、 {se} という機能語は、内容語の前に付いて、その内容語で定義されている1番めと2番めの項の役割の順番を入れ替えます。

{tavla} という内容語について考えてみますと、元の定義では {tavla} の1番めの項は「語る主体」、 {tavla} の2番めの項は「語る対象」という項の役割を担っていましたね。 {tavla} を述語として、「わたしがあなたに語る」という命題を作ると、

mi do tavla

この {tavla} という内容語の前に、 {se} という機能語を付けて {se tavla} とすると、 {se tavla} の1番めの項が「語る対象」、2番めの項が「語る主体」というふうに、項の役割の順番が入れ替わります。 これを使って、先ほどと同じ意味の命題を作ると

do mi se tavla

「あなたがわたしに語りかけられる」という形になります。 この日本語訳では「語りかけられる」というように、受け身のような訳をしましたが、必ずしもこう訳さないといけないわけではありません。 ロジバンには、もともと、能動態とか受動態とかいう文法概念はありませんし、主語とか目的語とかいう区別も、本質的にはありません。

さて、このように、 {tavla} という内容語に {se} という機能語を付けて、1番めと2番めの項の役割を入れ替えてしまえば、あとは、その前に {lo} を付けて

lo se tavla 「語りの聞き手」

というように、「{tavla} の2番めの項の役割を担うものごと」という意味の項を作ることができます。 SE類という品詞には、

se ( 1番めと2番めの項の役割を入れ替える)

te ( 1番めと3番めの項の役割を入れ替える)

ve ( 1番めと4番めの項の役割を入れ替える)

xe ( 1番めと5番めの項の役割を入れ替える)

という単語があります。 SE類の単語を付けた内容語を使って、述語になれる表現を作り、 更に、その表現全体の前に {lo} という機能語を付ければ、それぞれ、 「2番め、3番め、4番め、5番めの項の役割を担うものごと」という意味の項を作ることができます。

以上は「述語になれる表現で定義される、タグ無しの項の役割を担うものごと」という意味の項を作る方法でした。 それでは、「述語になれる表現にPU類やBAI類などのタグ付きの項が付いた場合の、タグ付きの項の役割を担うものごと」という意味の項を作ることはできるでしょうか? 例えば、「語る場所」という意味の項です。

{tavla} のタグ無しの項には、場所をあらわす項の役割がありませんから、「語る場所」という役割を担う項には、 {bu'u} という、場所をあらわすタグを付けるのでしたね。 このような「語る場所」という項も、もちろん作ることができます。

注記

音声講座初版で {bu'u} を「BAI類」と言ってしまいましたが、現行文法ではまだFAhA類です。 u'u

このためには、まず、 {tavla} という内容語で定義される1番めの項の役割を消してしまう機能語 {jai} を使います。

jai tavla

このように、内容語の直前に {jai} を付けると、1番めの項の役割が不特定になります。 この形のままでも、1番めの項の役割が不明な意味の述語として使えます。

ただ、今は更に、この内容語の1番めの項の役割が「語る場所」になるように変えたいので、この {jai} の直後に、場所をあらわす項の役割を与える {bu'u} を入れます。

jai bu'u tavla

こうすると、この表現を述語としたときに、1番めの項が「語る場所」という項の役割を担うことになります。

余談ですが、この {jai bu'u tavla} という表現と共に、消されてしまったもともとの1番めの項の役割「語る主体」を使いたい場合は、「語る主体」としたい項に、FA類のタグの一種で、新たな項の順番を追加する機能がある {fai} という単語を付けます。 例えば

ti fai mi jai bu'u tavla

と言えば、「ここはわたしが語る場所だ」という意味の命題になっています。

さて本題に戻りますと、このような、内容語の直前に {jai} と項のタグを付けて作られる述語になれる表現 {jai bu'u tavla} では、1番めの項の役割が、 {bu'u} という、場所をあらわすタグによって決まります。 ですから、この表現の頭に {lo} を付ければ、欲しかった項ができますね。

lo jai bu'u tavla 「語る場所」

このように、 {lo} という機能語を、述語になれる表現の前に付けたものは、項となるのですが、 この節の冒頭でいくつか挙げた項の中には、最後に {ku} という機能語が付いているものがありました。 例えば {lo trene ku} {lo mlatu ku} {lo nu sipna ku} などの項では、最後に {ku} という機能語が付いています。

この {ku} というのは、「LE類の単語が係る、述語になれる表現の範囲はここまでだ」というしるしになる機能語です。 構文の中で、LE類の係る範囲が誤解されない場合には、kuを省略しても構いません。

例えば、 {lo mlatu} 「猫」という項を、 {cisma} 「ニヤッと笑う」という述語の1番めの項の役割、つまり「笑う主体」という項の役割を担うものとして、命題を作ることを考えましょう。 この時、

lo mlatu cisma

と言ってしまうと、 {mlatu cisma} という内容語の列も 述語になれる表現 ですから、この全体に {lo} という機能語が掛かっていると見なされてしまいます。 そうすると、この表現は全体として「猫的な、ニヤッと笑うもの」という意味の1つの項となっていて、命題にはなりません。 {lo mlatu} だけで1つの項となるようにするためには

lo mlatu ku cisma 「猫がニヤッと笑う」

というように、 {ku} で区切る必要があります。

実は、複雑な構文になってくると、 {ku} のような区切りの機能語が、述語の前でたくさん必要になってくることがあるのですが、そういうたくさんの区切りを使う代わりに、述語の前に出てくる項と、述語との間を、一度に区切るための便利な機能語もあります。

それは {cu} という機能語で、述語全体の直前に付けます。 {cu} を使って、さきほどの表現の代わりに、

lo mlatu cu cisma 「猫がニヤッと笑う」

と言っても、同じ意味の命題になります。

注記

第9回でお話ししたような述語のタグが付いた述語でも、LE類の単語を付けて項とすることができます。例: lo pu cizra pendo 「以前の変な友達」

LE類の単語には、 {lo} のほかに {le} という単語もあります。 {le} という単語は、 {lo} と同じLE類という品詞に属していますから、文法上の振る舞いは {lo} と全く同じですが、意味は {lo} よりも狭くなります。つまり、「1番めの項の役割を担うものごとのうち、特に 話し手が思い描いている特定の個物」であることを明言したい場合には、 {lo} の代わりに {le} を使います。 話し手としてどちらを使うか迷う場合は、 {le} よりも広い意味になる {lo} の方を選んでおけば、間違いはありません。