束縛変項

Youtube : 第13回、 5分40秒から

冠頭では、「議論領域の中に、項の指すものごとが存在するのかしないのか」ということを明言することもできます。 例えば

bu'u ti ro da poi xanto ku'o su'o de zo'u de da ponse

という表現について考えましょう。

冠頭 : bu'u ti ro da poi xanto ku'o su'o de zo'u

命題 : de da ponse

この文の冠頭には、3つの名辞が並んでいます。

名辞:

bu'u ti 「ここでは」

ro da poi xanto ku'o 「ゾウであるもの全てについて」

su'o de 「deの指すものごとが 少なくとも1つ存在し」

冠頭の1つめの名辞 {bu'u ti} の {ti} は、話し手の近くのものごとを指す代項でしたね。これに {bu'u} という、場所をあらわす項のタグが付いて、1つの名辞になっています。

冠頭の2つめの名辞 {ro da poi xanto ku'o} の {ro} というのは、「議論領域の中の全て」という数をあらわす機能語です。

{da} はKOhA1類に属する代項です。 KOhA1類の代項は、 議論領域の中のものごと のどれを指しても良い、つまり、議論領域の中で指す対象を変化させることができる項で、変項(へんこう)とも呼ばれます。

KOhA1類の変項の前には、 {ro da} のように、何らかの数が付きます。 数とKOhA1類の変項によって、「議論領域の中の何個のものごとについてこの命題が当てはまるのか」を明言することができます。 {ro da} と言うと、「議論領域の中の全てのものごとについて、この命題が当てはまる」ということです。

議論領域の中で、KOhA1類の変項が指す対象の範囲は、このように、数をあらわす機能語によって束縛されますから、KOhA1類の変項は束縛変項(そくばくへんこう)と呼ばれます。

この例文では、 {ro da} の後に {poi xanto ku'o} というのが付いていますね。 これは、前回お話ししました「項に命題を繋げて限定する表現」です。 NOI類の {poi} と、NOI類の係る範囲を区切る {ku'o} との間に {xanto} 「ゾウだ」という命題が挟まれています。 NOI類で繋げられる命題の中で使われる代項、 {ke'a} は、ここでは {xanto} の1番めの項になるので、省略されています。

冠頭の3つめの名辞 {su'o de} の {de} という機能語も、KOhA1類の単語です。 つまり束縛変項ですから、 {de} の前には数を付けます。 ここでは {su'o} ですね。 これは「少なくとも1つ」という意味で、ロジバンでは数の一種です。 {su'o de} と言えば、「議論領域の中に、 {de} の指すものごとが少なくとも1つ存在している」つまり「ゼロ個ではない」ということをあらわします。

この例文の命題は、 {zo'u} の後に出てくる {de da ponse} という部分ですが、 この命題の述語は {ponse} 「所有する」という意味の内容語単語です。 この命題の項は2つ、 {de} と {da} です。 これは、この文の冠頭で使われている束縛変項ですね。

{ponse} の定義によって、1番めの項が「所有者」、2番目の項が「所有の対象」という項の役割を担います。 「{de} の指す対象が、 {da} の指す対象を所有する」という意味の命題になります。

命題の中では、 {de} {da} という順番で出てきましたが、 冠頭では {da} が先で、 {de} が後に出て来ました。 文の意味を考えるときは、冠頭の中で先に出てくる束縛変項の指す対象を、先に変化させて考えます。 つまり、この冠頭では {ro da} の方が {su'o de} よりも先に出てきますから、議論領域の中で {ro da poi xanto ku'o} 「ゾウであるもの全て」という束縛変項が指す対象の方を、まず、1つずつ変化させることを想像します。 そして、「ゾウである対象の1つ1つに対して、次の束縛変項 {su'o de} の指す対象が、少なくとも1つ存在する」というように考えるのです。

こうして、この文全体は「ここでは、ゾウであるもの全てについて、少なくとも1つのものが存在し、そのものがそのゾウを所有する」という意味になります。 もっと日常的な日本語に直すと「ここではどのゾウにも飼い主がいる」ということです。

冠頭での束縛変項の順番は、文全体の意味に影響します。 今の文の冠頭での、 {ro da} {su'o de} という束縛変項の順番を逆にしてしまうと

bu'u ti su'o de ro da poi xanto zo'u de da ponse

これは、 {su'o de} が {ro da} より先に出てきますから、 {de} の指す対象の方を先に変化させて考えます。 議論領域の中で、まず {de} の指す対象を1つ決めておきます。それに対して、次の束縛変項 {ro da poi xanto} の指す対象を、1つずつ変化させていくわけです。 このゾウもあの人のもの、あのゾウもあの人のもの、という具合です。

こう考えると、この文全体は、「ここでは、少なくとも1つのものが存在し、ゾウであるもの全てについて、そのものがそのゾウを所有する」という意味になります。 「ここでは、あるものが全てのゾウの飼い主だ」ということですから、先ほどの文とは違う意味になっていますね。