呼びかけの表現

Youtube : 第2回、 4分24秒から

出会いの挨拶 {coi} は、これ1つだけでも文になりますが、このあとに聞き手の呼び名を続けると、構文上は、その呼び名も含めた全体が「呼びかけ」という1つの塊になります。 例えば

coi ro do

この表現は、1つの呼びかけの塊になっています。 {ro do} というのは「みなさん」という意味です。 これが {coi} の後に続いていますから、全体として「みなさん、こんにちは」という呼びかけになります。

呼びかけをあらわす表現は、ほかにもいくつかあります。 例えば

mi'e cmana mlatu

これも、全体で「呼びかけ」という1つの塊となります。 {mi'e} というのが、呼びかけをあらわす単語で、「自己紹介」という意味があります。 {mi'e} の後には、話し手の呼び名を続けます。 つまりこの表現は、「わたしは {cmana mlatu} と申します」と自己紹介する、呼びかけの表現の一種です。

注記

{cmana mlatu} は、簡単に言うと「山猫」という意味です。ロジバンの紙芝居「どんぐりと山猫」に出てきます。

{coi} や {mi'e} のような、呼びかけをあらわす単語の品詞を、COI類と呼びます。 同じ品詞に含まれる単語は、文法上、同じ役割を担っています。 つまり、お互いに入れ替えても、文法的には正しい構文となります。 例えば、この2つの例文の {coi} と {mi'e} を入れ替えて

mi'e ro do

coi cmana mlatu

としても、文法的には正しい構文となります。ただ、意味上は {mi'e ro do} 「わたしはみなさんと申します」 なんて、ちょっと奇妙な自己紹介ですね。

COI類で作られる呼びかけの塊は、単独でも文になりますが、ほかの文と組み合わせて、全体として1つの文とすることもできます。例えば、2つの呼びかけの塊を組み合わせて

coi ro do mi'e cmana mlatu

としても、「みなさん、こんにちは、 {cmana mlatu} と申します」という意味の、1つの正しい文となります。

呼び名として許される音素の列というのは、どんな形でも良いのではなくて、ロジバンの文法の中で制限されています。 呼びかけの例で使った {ro do} や {cmana mlatu} という音素の列は、それぞれ文法上は「項」や「述語」と見なされる、意味のある音素列です。 「項」や「述語」という文法上の要素については、この講座の第4回以降でお話ししますから、今はわからなくても大丈夫ですよ。

呼び名として許される音素の列としては、このような文法上の「項」や「述語」と見なされる音素列のほかに、名前専用の単語を作ることができます。 名前専用の単語は、必ず子音で終わるように作ります。

例えば、「くまごろう」という名前の人がいるとしましょう。この日本語の発音を真似して、ロジバンの名前専用の単語にする方法を考えてみます。

ひとつには、最後の母音を消して

.kumagor.

あるいは、最後の母音を残して、その後に何らかの子音を付ける方法もあります。 「くまごろう」に、 {n} という子音を付けると

.kumagoron.

これも、名前専用の単語の候補として有効です。 最後の子音は、 {n} 以外の子音でも構いません。

.kumagoror.

.kumagorok.

などでも大丈夫です。

名前専用の単語では、アクセントをどこにおいても構いません。 ロジバンの音素列を、ASCII文字列であらわすときは、とくに指定しなければ、後ろから2番目の音節にアクセントが置かれていると見なされます。 それ以外のところにアクセントを指定する場合は、その部分を大文字で書くのが一般的です。例えば、 {.kumagoron.} の「マ」の部分にアクセントを指定したい場合は

.kumAgoron. または

.kuMAgoron.

と書きます。

名前専用の単語を使うときは、その単語の前後に、 {.} つまり「音のない瞬間」を入れます。 例えば

coi .kumagor. mo

発音するときにも、 {.kumagor.} の前後の「音のない瞬間」を意識しましょう。 日本語の小さい「っ」が付いているつもりで発音すると、うまくできると思います。

この例文も、全体として文法的に正しい1つの文です。 {coi .kumagor.} は、挨拶の呼びかけですね。 {mo} は「どうした?」という疑問をあらわす単語ですが、文法上、ここでは「命題」となります。 「呼びかけ」も「命題」も、単独で文として認められる表現ですが、これらを組み合わせて、1つの大きい文を構成することもできます。 そして、「呼びかけ」の塊は、ほかの文のどの単語の前後に入れても良いという、文法的に自由な性質があります。

注記

「呼びかけ」の塊を作るために、呼びかけの最後に {do'u} という単語を入れておく必要がある場合もありますが、このことについては、本講座では詳しく言及しません。

この例文では、「呼びかけ」の塊 {coi .kumagor.} が、「命題」 {mo} の前に付いて、 「おう、くまごろう、どうした?」 という意味の1つの文を構成しています。