ベクレル、グレイ、シーベルト

ベクレル

1ベクレル (Bq) は「1秒あたりに1個の原子核が崩壊する(個/秒)」という放射能の量だ。1秒あたりに10個の原子核が崩壊する物質は10ベクレル。放射性物質の原子の数が多ければ多いほど、ベクレルは大きい値になる。放射能の濃さを比べるときは、1キログラムあたりの物質について(ベクレル/kg)とか、1リットルあたりの水について(ベクレル/L)とか、調べる対象の量を決めて比べる。これがニュースで出てくる量だ。

この文の意味が分からない人は、以下の説明を読んでね。

原子核が崩壊するってどういうことかな?

放射性物質の原子核は、崩壊して別の物質の原子核になろうとする性質がある。原子核1個が崩壊するときに、放射線が1回出る。このときに出る放射線の種類は、崩壊の仕方によって違い、崩壊の仕方は、放射性物質の種類によって違う。

たとえば、ヨウ素131は、まず「β-崩壊(べーたまいなすほうかい)」という崩壊の仕方をする。β-崩壊では、電子(でんし)1個と反電子ニュートリノ1個が飛び出す。この飛び出してくる電子はβ線(べーたせん)の一種だ。これが引き続き「γ崩壊(がんまほうかい)」という崩壊の仕方をして、高エネルギーの光子(こうし)1個が飛び出す。この飛び出してくる光子がγ線(がんません)だ。γ線は、目に見える光と同じ光子の流れだけれど、γ線の波長は目に見える光の波長に比べてとても短い。光子の波長が短いということは、エネルギーが高いということだ。ヨウ素131はこの2通りの崩壊を経由して、最終的に、キセノン131という安定した物質に変わる。

また、プルトニウム239は「α崩壊(あるふぁほうかい)」という崩壊の仕方をして、ウラン235(これもまた放射性物質)に変わる。1回のα崩壊で、α粒子(あるふぁりゅうし)1個が飛び出す。この飛び出してくるα粒子がα線(あるふぁせん)だ。α粒子1個というのは、陽子2個と中性子2個のかたまりでできていて、ヘリウム4の原子核と同じだ。だがα線は、それが高速で飛んでいるような放射線だ。また、α崩壊の直後に引き続いてγ崩壊し、光子1個(γ線)が飛び出す。

1個の原子核が崩壊すると、それは別の物質の原子核に変わる。このため、元の原子核の数も元の原子の数も減っていく。だから同一の物体のベクレルの値は、時間の経過とともに減っていく。そもそも、このような崩壊のしやすさは、物質の原子核の種類によって違う。

崩壊のしやすさを比べるためには、「半減期」という時間を使う。今、同じ物質の原子が何個もあるとしよう。放射性物質の原子は、時間の経過とともにそれぞれ崩壊して別の物質の原子に変わるので、やがて元の放射性物質の原子の個数が半分になる時がやってくる。今からその時までの時間が半減期。原子崩壊しやすい物質の半減期は短い。原子崩壊しにくい物質の半減期は長い。主な物質の半減期は『理科年表』という本の「原子、原子核、素粒子」の項目の「おもな放射性核種(放射性同位体)」という表に載っているよ。

半減期の短い物質が集まった物体のベクレルを測ると、初めのうちは高い数値になるけれど、原子核崩壊してどんどん別の物質に変わってしまうので、時間とともにベクレルの数値が急速に下がっていく。逆に、半減期の長い物質が集まった物体のベクレルの数値は、時間が経過しても目に見えて大きな変化はなく、いつまでも同じくらいの量の放射線を出し続ける。

ウランやプルトニウムのような重い原子に中性子が当たると、α崩壊する代わりに、核分裂して2個以上の別の原子に変わることもある(いま話題のヨウ素131やセシウム137などはこうしてできた)。このとき、中性子が何個か飛び出し、γ線も出る。飛び出してくる中性子は、エネルギーが高いので放射線の一種で、これは中性子線と呼ばれる。この中性子線がほかの核分裂しやすい原子核に当たると、その原子核も核分裂することがある。そうするとそこからまた中性子線が出る。だから、核分裂しやすい性質を持った原子が濃く集まっていると、次々に原子核が分裂して、止まらなくなる。この状態が臨界状態。

放射能って何だろう?

日本語で放射能っていうのは、放射線を出す性質のこと。中国語では「能」と言えば「エネルギー」という意味だから、放射線を出す "性質" のことを「放射 "能"」とは言わず、「放射 "性"」と言う(もちろん中国人でも間違った意味で「放射能」という単語を使う人はいるかもしれない)。英語では radioactivity という。ここに、 -ity という「性質を表す語尾」が付いていることから考えても、「放射能」という日本語訳は、あんまり適切な訳ではなかったかもしれないね。「放射線を出す性質」のことを「放射 "能"」と呼ぶのは、日本独特の言い回しだろう。すっかり定着してしまったから、これを使うしかない。だから「放射線を出す性質」(放射能)を持った物質のことを、時には放射能と呼んだり、あるいは放射性物質と呼んだりすることもあるわけだ。

グレイ

放射線は、物質に当たるとその物質の原子を電離(イオン化)させる作用がある。原子を電離させるとき、放射線のエネルギーがその原子に吸収される。このとき、1kgあたりの物質に1ジュールのエネルギーを与える放射線の吸収線量(ジュール/kg)が1グレイ (Gy)。

電離って?

原子はプラスの電荷を持つ原子核と、そのまわりにあるマイナスの電荷を持ついくつかの電子から成っている。その電子を、原子核のそばから引き離す作用が電離作用だ。

α線は電離作用が強い。つまり、α線が物質に当たると、そのエネルギーが吸収されやすい。逆に言えば、物質に当たると自分のエネルギーがすぐに弱くなって止まってしまう。だから、α線は薄い紙でもさえぎることができる。

β線は、α線より電離作用が弱いので、物質に当たってもα線よりは止まりにくい。β線は厚さ1ミリ程度のアルミの板や、厚さ1センチ程度のプラスチックの板などでさえぎることができる。

γ線は、さらに電離作用が弱い。γ線は厚さ数センチの鉛の板などでさえぎることができる。

中性子線は、水素などの軽い原子の原子核にぶつかると、ぶつかられた相手の原子核は走り出して、それが電離作用を発生する。また中性子線は、重い原子の原子核を走らせる作用は弱いけれど、重い原子核に吸収された直後にγ線を出す作用がある。このγ線には電離作用がある。逆に中性子線は、水素などの軽い原子の原子核にぶつかると自分のエネルギーを失いやすいから、水槽などで中性子線をさえぎることができる。

シーベルト

放射線は、生き物の体を構成している分子やそのまわりの水も電離させる。細胞の中のDNAが電離して壊れることもあるし、電離した水分子が細胞を構成している分子と化学反応して、細胞を痛めることもある。
放射線が生物に与える作用の大きさは、放射線の種類によって違う。この違いを加味した放射線の量(ジュール/kg)は等価線量と呼ばれ、シーベルト (Sv) という単位が付く。 グレイから等価線量を計算するには、放射線の種類別に重みを決めてグレイの値に掛け、それらの合計を出す。重みの具体的な数値は国際放射線防護委員会 (ICRP) が決めている。例えば、α線なら×20、β線やγ線なら×1(つまりグレイと同じ値)、中性子線ならエネルギーの大きさによって異なり、最大で×20。 ニュースで「空間線量率」として出てくる値(シーベルト/時)は、1時間あたりの等価線量だ。
欧州放射線リスク委員会 (ECRR) の2010年の勧告では、グレイに ICRP とは違う重みを掛けた、生物学的等価線量(シーベルト)を使う。 外部被曝については、「24時間以内に2回以上被曝したら細胞の修復が妨害される」という可能性を考慮して10倍から50倍の重みを掛ける。 内部被曝についても、放射性物質の種類によって、1倍から2000倍の重みを掛ける。 その重みを決める際に、 「原子核が崩壊して別の放射性物質に変わり、それがまた原子核崩壊するものがある」とか、 「原子に放射線が当たって原子核の周りの電子が1個出ていった後、原子核の周りにある他の電子が移動することによって、光子(X線)や電子が飛び出すことがある(オージェ効果:原子番号の小さい原子で起こりやすい)」とか、 「原子に光子が当たると、原子核の周りにある電子が飛び出すことがある(光電効果:原子番号の大きい原子で起こりやすい)」とか、 「微粒子状の放射性物質が体の中で溶けずに塊のまま残ることがある」 などの性質を考慮している。
さらに、放射性物質の生化学的な性質によっても、2倍から1000倍の重みを掛ける。 その重みを決める際に、 「陽イオンの状態の放射性物質が組織の表面に吸着して濃くなることがある」とか、 「放射性物質の種類によっては、DNAに結合しやすかったり、酵素や補酵素の構成要素になったり、脂肪に溶けやすかったりする」とか、 「体内に吸収された後、原子核崩壊して別の放射性物質に変わったために排泄されにくくなることがある」 などの性質を考慮している。
グレイの値にこういった重みを掛けた量が、生物学的等価線量(シーベルト)になる。 ICRP の等価線量よりたくさんの重みが掛けられているから、生物学的等価線量は ICRP の等価線量より大きい値になることが多い。
シーベルトという単位が使われる量はもう一つあって、それは実効線量と呼ばれる。癌や遺伝病をもたらすリスクは、生物種によってに対しても、放射線を受ける体の臓器の種類によっても違う。この違いを加味した放射線の量(ジュール/kg)が実効線量(シーベルト)だ。 これは、放射性物質の生物濃縮(食物連鎖で食べられた生き物の中の放射性物質が、食べた生き物の体から排泄されずに濃くなっていくこと)や内部被曝が問題になってくれば、必要になる数値だ。
実効線量は、人体を×1として、生物種別や臓器別に ICRP が決めた重みを等価線量に掛けた数値をとる。
この重みについては ECRR も同じ値を使うけれども、等価線量の代わりに生物学的等価線量に対して重みを掛けて、それを生物学的実効線量(シーベルト)と呼ぶ。

外部被曝の実効線量(シーベルト)は、人体全体については等価線量と同じだ。医療放射線などで特定の組織に被曝する場合は、等価線量に、組織の種類によって違う重みを掛けて得られる数値が実効線量となる。

内部被曝の実効線量(シーベルト)は、食事や呼吸で体に入る放射能の量(ベクレル)から計算できる。まず、物質の中の放射能の濃さ(ベクレル/kg、ベクレル/Lなど)を、その物質の摂取量に掛ければ、摂取した放射能の量(ベクレル)がわかる。この量は「1秒間に何個の放射線を体内から浴びることになるか」を表している。放射性物質の種類がわかれば、その崩壊の種類と半減期を『理科年表』などで調べて、その物質が体内にとどまっている間に受ける放射線の総量が計算できる。放射性物質の化学的状態とその性質がわかれば、その物質が排泄されるのか蓄積されるのかがわかる。

実はすでにいろんな放射性物質について、国際放射線防護委員会 (ICRP) や欧州放射線リスク委員会 (ECRR) が、それぞれの考えに基づいて計算し、その計算を元に、ベクレルの値がわかっているときに体全体の実効線量を簡単に計算するための「実効線量換算係数(シーベルト/ベクレル)」を公表している。実効線量換算係数は、放射性物質の種類・放射性物質の化学的形態(化合物かどうか)・摂取する人の年齢・空気と一緒に吸い込むか・食べたり飲んだりするかといった、条件によって違ってくる。 ECRR の使う生物学的実効線量は、 ICRP の使う実効線量よりも多くの重みを掛けた値になるから、換算係数も大きくなり、同じ量のベクレルでも、ECRR の方が被曝量のシーベルトが大きい値になる。

もし摂取したか、摂取する可能性のある放射性物質のベクレルの値が分かったら、説明を読んで、自分や家族の内部被曝量を計算してみてね。

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