個、群れ、集合

Youtube : 第12回、 17分57秒から

さて、第10回から今回まで、項の基本的な構造についてお話ししてきましたが、各項がものごとを指している場合には、ロジバンでは、そのものごとを3種類のカテゴリーに分類できると考えます。

  1. 個々のものごと

  2. 個々のものごとを区別しないで、群れやまとまりとみなしたもの

  3. 個々のものごとを元(げん)とする集合

ここで「集合」と言っているのは、数学で言う、集合論の集合です。 「元(げん)」というのは、集合を構成する要素のことです。

実は、第10回でお話しした、 {lo} {le} {la} という機能語は、 「個々の」ものごとを指す項を作る機能語でした。 ただし、個々のものごとのそれぞれが、群れや集合であることは、ありえます。 話し手として、「項が群れや集合を指す」ということを明言する必要があるときは、 {lo} {le} {la} の代わりに、群れを指す項を作る機能語や、 集合を指す項を作る機能語を使います。 これらの機能語もLE類、あるいはLA類に属していますから、文法上の振る舞いは {lo} {le} {la} と同じです。

  1. {lo} {le} {la} : 個々のものごとを指す項を作る

  2. {loi} {lei} {lai} : 群れを指す項を作る

  3. {lo'i} {le'i} {la'i} : 集合を指す項を作る

先ほどお話ししたLAhE類にも、「個々のものごと」「群れ」「集合」という分類を明言するための単語があります。

  1. {lu'a} : 項の直前に付いて、個々のものごとを指す項に変える

  2. {lu'o} : 項の直前に付いて、群れを指す項に変える

  3. {lu'i} : 項の直前に付いて、集合を指す項に変える

この話題に関連して、前回予告しました「互いに愛し合っている」という意味をあらわす方法を1つお話ししましょう。

「互いに愛し合っている」ということをあらわす方法は、いくつかあるのですが、 今回お話しする方法は、「お互い様だ」という意味の内容語単語 {simxu} を述語として使うことです。 {simxu} の定義では、今のところ正式には、1番めの項の役割が「集合の元の間の関係がお互い様であるような、その集合」と決められています。

集合の性質は、その集合の元が持つ性質とは、必ずしも一致しません。 例えば「お互い様」という性質は、「集合の中の元の間の関係」として定義することができます。 これは集合の性質です。 このような「集合の中の元の間の関係」というのは、個々の元が単独で持つ性質としては定義できません。 お互い様という関係となるには、相手が必要ですからね。

一方、 {mi'a} 「話し手と第3者との組」という代項は、「話し手と第3者とを元とする集合」をあらわしてはいません。 {mi'a sipna} 「わたしたちは眠る」と言えば、集合が睡眠状態になっているのではなく、個々の話し手と第3者がそれぞれに睡眠状態になっているわけです。

このような、集合を指していない項である {mi'a} を、項の役割として集合を指定する {simxu} という述語と共に使うために、 {lu'i} という、集合を指す項に変える機能を持つLAhE類の単語が役に立ちます。

lu'i mi'a simxu lo ka ce'u ce'u prami

つまり

述語: simxu 「お互い様だ」 (内容語単語)

項: lu'i mi'a 「話し手と第3者とを元とする集合が」 lo ka ce'u ce'u prami 「愛し、愛されるという性質に関して」

この {ka} というNU類の単語の使い方については、第8回でお話ししましたね。 こうして「わたしたちは愛し合う」という意味の命題ができました。

以上は、 {simxu} 「お互い様」という内容語単語の定義に従う、厳密な表現です。 でも、1つの代項を、 {simxu} の1番めの項としてだけでなく、他の述語を使った命題の中でも使いたいときに、LAhE類で何度も群れに変えたり集合に変えたりすることになって、使いにくいことがあります。 そのせいかどうかわかりませんが、実際の使われ方を見ていると、 {simxu} の1番めの項として、「お互い様という性質を持つ集合そのもの」の代わりに、「お互い様という性質を持つ集合の元」あるいは「お互い様という性質を持つ集合の元の群れ」を指す項が使われることが頻繁にあります。 今の例をその方針で言い換えると、 {lu'i} が要らなくなり、

mi'a simxu lo ka ce'u ce'u prami

となります。 この慣習が定着すると、将来は {simxu} の定義のほうが書き換えられるかもしれません。