代項

Youtube : 第11回、 6分37秒から

さて次は、項の基本的な構造のうち、「他の「項」に取って代わる、単独の機能語」について、考えてみましょう。

この講座の第7回では、内容語や述語や命題に取って代わる「代命題」というものについて、少しご紹介しましたね。 いまからお話しする機能語は、代命題とは違って、項に取って代わるものですから、代項({sumka'i})と呼ぶことにしましょう。

代項となる機能語は、KOhA類という品詞に属しています。 KOhA類の単語は、意味の違いによって更に細かく分類されて、KOhA1類、KOhA2類などと数字を付けて呼ばれることもあります。

いくつかKOhA類の単語の例を挙げてみましょう。

例えば、記号としての音素列そのものを指す代項というものがありまして、それはKOhA2類として分類されています。 例えば、

di'u (今現在発話中の文の直前の音素列を指す)

dei (今現在発話中の音素列を指す)

di'e (今現在発話中の文の直後の音素列を指す)

...

などがあります。 {dei} や {di'u} を使った歌もありますよ。その歌の中では、今現在発話中の文、つまり、歌っている歌自体を指す項として、 {dei} が使われています。

dei ca se sanga ze'e ba .i ranji lo'e vitno .ia .i lo la'e di'u naldjuno co'a sanga ru gi'e ba ze'e ru'i sanga ki'u le du'u

dei ca se sanga ze'e ba .i ranji lo'e vitno .ia ...

2002年にロジバンのコミュニティで翻訳された歌

というふうに、永遠に続くのですが、歌の内容も「この歌は永遠に続く」という意味になっています。

さて、次の例は、話し手をあらわす {mi} 、聞き手をあらわす {do} など、KOhA3類に属する単語です。

ロジバンでは、すべての項について言えることですが、項の数量を明言しない限り、文脈によって、項が指すものごとの個数は単数でも複数でも、あるいはゼロでさえもありえます。 {mi} や {do} のような代項についても同じことです。 {mi} という代項は話し手だけを指すのですが、その話し手の人数は、文脈によって、「わたし一人」でも「わたしたち」でもありえます。 同じように、 {do} 「聞き手」という代項も、数量が付いていなければ、文脈によって、単数でも複数でもありえます。

{coi rodo} 「みなさん、こんにちは」という挨拶に出てくる {ro} というのは、「想定される範囲内での全て」という数量をあらわす単語です。 ですから、 {ro} という数量を、聞き手をあらわす {do} という代項に付けて {rodo} と言うと、「想定される範囲内での全ての聞き手」を指すことになります。

KOhA3類には、 話し手、聞き手、それと、話し手でも聞き手でもないだれか(第3者)という、3種類の対象の組み合わせによって、違う単語があります。 例えばKOhA3類に属する {mi'a} という代項は、聞き手以外の者、つまり、話し手と第3者との組を指します。

ここで注意しないといけないのは、 {mi'a} という代項自体には、「お互いに」という意味が含まれていないということです。 例えば、 {mi'a prami} という命題は、「話し手と第3者の組は愛する」と訳せますが、これは、互いに愛し合っているという意味にはなりません。 話し手と第3者が、それぞれに何かを愛しているという意味になります。

「話し手と第3者が互いに愛し合っている」ということをあらわすには、いくつかの方法がありますが、そのうちの1つの方法は、次回お話しすることにしましょう。

さて、次の例は、時空内のものごとを指し示す、KOhA6類に属する代項です。

ti (話し手の近くにあるものごとを指す/ 「これ」「ここ」)

tu (話し手からも聞き手からも遠くのものごとを指す/ 「あれ」「あそこ」)

ta (話し手からは遠く、聞き手からは近いものごとを指す/ 話し手からも聞き手からも、近くないし、遠くもないものごとを指す/ 「それ」「そこ」)

ここで「ものごと」と言っているのは、非常に広い意味で、ものでも、場所でも、できごとでも、時空内のある位置を占めるものであれば、何でも構いません。

最後に、KOhA7類に属する {ma} という代項についてもお話しておきましょう。 {ma} は、項について質問をするための代項です。 例えば

ca ma do ti klama

という命題を考えましょう。

この命題の述語は、 {klama} 「何らかの手段での移動」という内容語単語1つだけから構成されています。

{ca ma} というのは、 {ma} という、項についての質問をあらわす代項に、 {ca} という、時点をあらわす項のタグが付いた表現で、「何の時点で」つまり、「いつ」という意味の質問になります。

{do} と {ti} は、先ほどお話しした代項ですね。 この命題は全体として「いつあなたはここに来ますか」という意味になります。

このように {ma} で質問された場合の回答としては、 {ma} の代わりに当てはまる項だけを言えば充分です。例えば

lo bavlamna'a 「来年」

という、項だけで構成された回答は、文法的に正しい文となります。